債務整理|佐賀商工共済協同組合の債務超過に絡む裁判

裁判所の判断

主文

1 原告番号88,同番号90,同番号127,同番号168及び同番号213を除く別紙請求金額表中「原告名」欄記載の各原告に対し,
(1) 被告Y1,同Y2及び同Y3は,各自,各当該原告に対する同表中「s最終請求金額」記載の各金員及びこれに対する平成18年8月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告県は,各当該原告に対する同表中「被告県認容額」記載の各金員及びこれに対する平成18年8月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告番号88及び同番号127に対し,
(1) 被告Y1,同Y2及び同Y3は,各自,各当該原告に対する同表中「s最終請求金額」記載の各金員及び同「x請求金額」欄記載の内金に対する平成18年8月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告県は,各当該原告に対する同表中「被告県認容額」記載の各金員及び同欄中「うち元( 金)」と記載された内金に対する平成18年8月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告番号90,同番号168及び同番号213に対し,
(1) 被告Y1及び同Y2は,各自,各当該原告に対する同表中「s最終請求金額」記載の各金員及び同「x請求金額」欄記載の内金に対する平成18年8月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告Y3は,各当該原告に対する同表中「被告Y3認容額」記載の各金員及び同欄中「(うち元金)」と記載された内金に対する平成18年8月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 被告県は,各当該原告に対する同表中「被告県認容額」記載の各金員及び同欄中「うち元( 金)」と記載された内金に対する平成18年8月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用については,原告らと被告Y1,同Y2及び同Y3との間においては,すべて上記被告らの負担とし,原告らと被告県との間においては,これを2分し,その1を原告らの負担とし,その余は被告県の負担とする。
6 この判決は,第1項ないし第3項に限り,仮に執行することができる。
7 ただし,被告県が,別紙請求金額表中「原告名」欄記載の原告のため,同表中「担保額」記載の金額の担保を供するときは,同被告は前項による仮執行を免れることができる。

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事実及び理由

第1 請求の趣旨

被告らは,各自,別紙請求金額表中「原告名」欄記載の各原告に対し,次の金員を支払え。
@ 同表中「s最終請求金額」記載の各金員
A 同金額に対する平成18年8月2日から支払済みまで年5分の割合による金員。
ただし,原告番号88に対しては,同表中「x請求金額」記載の各金員に対する平成18年8月2日から支払済みまで年5分の割合による金員

第2 事案の概要

1 事案の要旨

(1) 中小企業等協同組合法(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成17年法律第87号。以下「整備法」という。)による改正前のもの。以下「中協法」という。)に基づいて設立された事業協同組合である佐賀商工共済協同組合(以下「商工共済」という。)は,平成3年ころから,多額の債務超過に陥ったが,これを粉飾経理操作により隠蔽して事業を継続していたところ,平成15年8月27日,佐賀地方裁判所により破産宣告(以下「本件破産宣告」という。)を受けて倒産(以下「本件破産」という。)したため,商工共済の多数の組合員は,同組合に預け入れていた共済掛金又は貸付金(以下,それぞれ「共済掛金」,「貸付金」といい,これらを総称して「貸付金等」という。)の返還を受けることができなくなった。
(2) 本件は,商工共済の組合員(又はその相続人)である原告らが,@商工共済の当時の理事であった被告Y1,同Y2及び同Y3(以下,この被告3名を総称して「被告理事ら」という。)に対しては,民法709条又は中協法38条の2第2項,3項に基づく責任,A商工共済の中協法上の監督機関である被告県に対しては,国家賠償法1条1項に基づく責任があり,Bさらに,被告らの行為は,民法719条1項の共同不法行為を構成するが,その不法行為日は,原告らが商工共済に最後に貸付金等を預け入れた日であると主張して,各損害金(弁護士費用を含む。)及びこれに対する不法行為日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
なお,本件訴訟は,当初,商工共済の理事であったA1及びA2も共同被告としていたが,その後,A1に対する訴訟は請求認諾,A2に対する訴訟は,弁論分離後,いわゆる欠席判決(確定)によりそれぞれ終了している。

2 争いのない事実等

以下の事実は,当事者間に争いがないか,又は本文中に掲記の証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認めることができる。
(1) 当事者等
ア商工共済は,昭和35年7月14日,組合員に対する事業資金の斡旋,佐賀県商工共済協同組合連合会(以下「連合会」という。)の委託を受けてする各種共済事業の代理業務,上記事業に付帯する事業などを目的として,中協法に基づき設立された事業協同組合であり,その所在地は佐賀市a町b番c号である(甲47)。
イ佐賀県商工共済協同組合連合会(連合会)は,佐賀県区域内の協同組合を会員とし,会員に対する事業資金の貸付け,所属員のためにする福利厚生事業(貯蓄共済,年金共済)などを目的として,昭和47年1月19日に設立された協同組合連合会(中協法3条3号,8条5項参照)であり,平成8年当時の会員は実質的には商工共済のみであった(甲48〜53)。
ウ被告Y1は,参議院議員であるが,平成3年5月30日から平成8年7月14日まで,同組合の理事長(代表理事,以下単に「理事長」という。)の地位にあったものである(甲44,45)。
エA1(以下「A1理事長」ともいう。)は,佐賀県議会議員であり,被告Y1の後任として,同被告辞任後の平成8年8月2日から本件破産宣告を受けた平成15年8月27日まで,商工共済の理事長の地位にあったものである(甲46,47)。
オA2(以下「A2副理事長」ともいう。)は,昭和60年4月ころから本件破産宣告を受けた平成15年8月27日まで,商工共済の副理事長の地位にあったものである(甲80)。
カ被告Y2は,平成3年7月26日から平成11年5月25日まで,商工共済の専務理事の地位にあったものである(甲67)。
キ被告Y3は,被告Y2の後任として,同被告辞任後の平成11年6月1日から本件破産宣告を受けた平成15年8月27日まで,商工共済の専務理事の地位にあったものである(甲85)。
クA3(以下「A3局長」という。)は,平成元年7月ころから平成13年12月ころまで,商工共済の事務局長の地位にあったものである(甲64〜66)。
ケA4(以下「A4次長」という。)は,平成3年7月ころから平成7年12月末ころまで,事務局長兼経理課長の地位にあったものである(甲62,63)。
コA5(以下「A5課長」ともいう。)は,平成6年7月ころから平成10年ころまでは商工共済の経理課長代理の地位,同年ころから本件破産宣告まで商工共済の経理課(後に共済経理課)の課長の地位にあったものである(甲91の1・2,92〜95)。
サ原告ら(原告番号147,同番号204,同番号39及び同番号80を除く。)並びに亡B1,亡B2,亡B3及び亡B4は,いずれも商工共済の組合員だったものである(甲B1〜2202,枝番を含む。)。
シ被告県は,地方自治法上の普通地方公共団体であり,被告県の知事は中協法111条1項1号上,商工共済の所管行政庁である。
なお,平成3年4月23日から平成15年4月22日までの間の被告県の知事は,C1(以下「C1知事」という。)であった。
スC2(以下「C2部長」という。)は,平成8年5月11日から平成11年7月3日まで,被告県の商工労働部の部長を務めていたものである(甲28,乙イ1)。
セC3(以下「C3次長」という。)は,平成6年4月1日から平成9年3月31日まで,商工労働部の次長を務めていたものである(甲29,乙イ1)。
ソC4(以下「C4次長」という。)は,C3次長の後任として,平成9年4月1日から同年(平成10年との記載もある。)12月31日まで,商工労働部の次長を務めていたものである(甲42,43)。
タC5(以下「C5課長」という。)は,平成7年5月1日から平成10年3月31日まで,商工労働部商工企画課の課長を務めていたものである(甲3,29,乙イ1,2,17)。
チC6(以下「C6課長」という。)は,平成10年4月1日から平成11年4月30日まで,商工企画課の課長を務めていたものである(甲34)。
(2) 原告らの商工共済への金員預入れ
原告らは,別紙請求金額表の「請求金額内訳」欄記載のとおり,商工共済に対し,金員を預け入れた(甲B1〜2202,枝番を含む。)。
なお,原告らを含む組合員の中には,共済や金銭消費貸借契約が満期を迎えると,これらの共済掛金又は貸付金の満期金等について現実の返還を受けることに代えて,その全部又は一部を新たに締結する金銭消費貸借の貸付金として預け直すこともあり(以下「本件更新」という。),上記預入れの時点には,更新をした時点も含んでいる。
(3) 商工共済の破産
商工共済は,平成15年8月26日,佐賀地方裁判所に自己破産の申立てを行い(同裁判所同年(フ)第873号事件),翌27日午後5時,本件破産宣告を受け,D弁護士(以下「D管財人」という。)が破産管財人に選任された(甲44〜47)。
(4) 当初原告らの一部の死亡と相続による承継
ア亡B1は,平成16年5月27日死亡し,同人の相続人間での協議により,その妻である原告番号147が,同人の遺産を承継した(甲1462の1〜5)。
イ亡B2は,平成17年1月5日死亡し,その長男である原告番号204が同人の地位を承継した(甲B2032)。
ウ亡B3は,平成17年8月31日死亡し,その妻である原告番号80が同人の地位を承継した(甲B793,794の1〜3)。
エ亡B4は,平成17年10月3日死亡し,その妻である原告番号39が同人の地位を承継した(甲B383の3)。
(5) 被告県による立替金との相殺
被告県は,本件破産宣告後,原告らを含む組合員に対するつなぎ融資的なものとして「佐賀商工共済, 協同組合破産債権配当金一部立替金制度」(以下「立替金制度」という。)と称して,別紙各請求金額表の「佐賀県借入額」欄に借入額の記載がある原告らに対し,同欄記載の金額を貸し付けた(以下「立替金債務」という。甲126)。
同原告らは,同被告に対し,平成16年10月20日,同年12月3日及び平成17年2月7日送達の本件各訴状により,本件損害賠償請求権をもって,立替金債務と対当額において相殺する旨の意思表示をした。
(6) 刑事事件における有罪判決
A1,A2,Y3及びA5は,本件に関し,共謀の上,平成14年4月1日ころから平成15年8月24日ころまでの間,商工共済組合員から,合計1億3905万9326円を詐取したとして起訴され,平成17年4月20日,佐賀地方裁判所において,同罪により,いずれも有罪判決(A1は懲役1年10月の実刑,A2は懲役1年4月,4年間執行猶予,被告Y3は懲役1年4月,3年間執行猶予,A5は懲役10月,2年間執行猶予)の宣告を受け,同判決はそのころ確定した(乙イ7)。
(7) 破産事件における配当金受領
原告らは,商工共済の破産手続(以下「本件破産手続」という。)において,平成18年8月1日以降,配当率を約33.59%とする配当(以下,この配当を「本件配当」といい,本件配当により受領した配当金を「本件配当金」という。)を受けたため,同年11月30日付けで請求の減縮を申し立て(ただし,本件配当金の額が後記の立替金債務の額に満たず,現実には本件配当金を受領できなかった原告番号88を除く。),被告らは,この減縮に同意した。

2 中協法の規定

(1) 1条(法律の目的)
この法律は,中小規模の商業,工業,鉱業,運送業,サービス業その他の事業を行う者,勤労者その他の者が相互扶助の精神に基き協同して事業を行うために必要な組織について定め,これらの者の公正な経済活動の機会を確保し,もつてその自主的な経済活動を促進し,且つ,その経済的地位の向上を図ることを目的とする。
(2) 5条(基準及び原則)
組合は,その行う事業によってその組合員に直接の奉仕をすることを目的とし,特定の組合員の利益のみを目的としてその事業を行ってはならない(2項)。
(3) 38条の2(理事の責任)
ア1項
理事がその任務を怠ったときは,その理事は,組合に対し連帯して損害賠償の責に任ずる。
イ2項
理事がその職務を行うにつき悪意又は重大な過失があったときは,その理事は,第三者に対し連帯して損害賠償の責に任ずる。
ウ3項
理事が40条1項の書類に記載すべき重要な事項につき虚偽の記載をし,又は虚偽の登記若しくは公告をしたときも,前項と同様とする。
ただし,理事がその記載,登記又は公告をしたことについて注意を怠らなかったことを証明したときは,この限りでない。
エ5項
1項の理事の責任については,商法(整備法による改正前のもの)266条2項,3項及び5項(取締役の責任)の規定を準用する。
(4) 40条(決算関係書類の提出,備付及び閲覧等)
ア1項
理事は,通常総会の会日の1週間前までに,事業報告書,財産目録,貸借対照表,損益計算書及び剰余金処分案又は損失処理案を監事に提出し,且つ,これらを主たる事務所に備えて置かなければならない。
イ2項
理事は,監事の意見書を添えて前項の書類を通常総会に提出し,その承認を求めなければならない。
(5) 104条(不服の申出)
ア1項
組合若しくは中央会の業務若しくは会計が法令若しくは定款,規約若しくは共済規程に違反し,又は組合若しくは中央会の運営が著しく不当であると思料する組合員又は会員は,その事由を添えて,文書をもつてその旨を行政庁に申し出ることができる。
イ2項
行政庁は,前項の申出があつたときは,この法律の定めるところに従い,必要な措置を採らなければならない。
(6) 105条(検査の請求)
ア1項
組合員又は会員は,その総数の十分の一以上の同意を得て,その組合又は中央会の業務又は会計が法令又は定款,規約若しくは共済規程に違反する疑いがあることを理由として,行政庁にその検査を請求することができる。
イ2項
前項の請求があつたときは,行政庁は,その組合又は中央会の業務又は会計の状況を検査しなければならない。
(7) 105条の2(決算関係書類の提出)
組合及び中央会は,毎事業年度,通常総会の終了の日から2週間以内に,事業報告書,財産目録,貸借対照表,損益計算書及び剰余金の処分又は損失の処理の方法を記載した書面を行政庁に提出しなければならない。
(8) 105条の3(報告の徴収)
行政庁は,毎年1回を限り,組合又は中央会から,その組合員又は会員,役員,使用人,事業の分量その他組合又は中央会の一般的状況に関する報告であって,組合又は中央会に関する行政を適正に処理するために特に必要なものを徴することができる。
(9) 105条の4(検査等)
行政庁は,組合若しくは中央会の業務若しくは会計が法令若しくは定款若しくは共済規程に違反する疑いがあり,又は組合若しくは中央会の運営が著しく不当である疑いがあると認めるときは,その組合若しくは中央会からその業務若しくは会計に関し必要な報告を徴し,又はその組合若しくは中央会の業務若しくは会計の状況を検査することができる(1項)。
(10) 106条(法令等の違反に対する行政庁の措置)
ア1項(業務改善命令)
行政庁は,105条の4第1項の規定により報告を徴し,又は105条2項若しくは105条の4の規定により検査をした場合において,組合若しくは中央会の業務若しくは会計が法令若しくは定款,規約若しくは共済規程に違反し,又は組合若しくは中央会の運営が著しく不当であると認めるときは,その組合又は中央会に対し,期間を定めて必要な措置を採るべき旨を命ずることができる。
イ4項(解散の命令)
行政庁は,組合若しくは中央会が第1項の命令に違反したとき,又は組合若しくは中央会が正当な理由がないのにその成立の日から1年以内に事業を開始せず,若しくは引き続き1年以上その事業を停止していると認めるときは,その組合又は中央会に対し,解散を命ずることができる。
(11) 115条(罰則)
次の場合には,組合又は中央会の発起人,役員又は清算人は,20万円以下の過料に処する。
39条又は40条(以上の各規定を69条,82条の8又は82条の18において準用する場合を含む。)の規定に違反して書類を備えて置かず,その書類に記載すべき事項を記載せず,若しくは不実の記載をし,又は正当な理由がないのにその書類の閲覧若しくは謄写を拒んだとき(8号)。
105条の2の規定に違反して書類を提出せず,又は虚偽の書類を提出したとき(18号)。


第3 争点及びこれに関する当事者の主張

1 被告Y1,同Y2及び同Y3の責任

(1) 原告らの主張
ア被告Y1は,平成3年5月30日ころから平成8年7月14日までの間,商工共済の理事長の職にあったものであるが,平成3年ころ,商工共済の債務超過の事実を認識し,平成6年12月ころには,支払不能及び粉飾経理の事実を認識したにもかかわらず,その事実を秘匿して組合員である原告らからの金員の預入れを継続させることを決定した。
同被告は,代表理事としてこの方針を決定しており,商工共済は,その方針に基づき違法行為を継続した。
被告Y1が粉飾経理に関与していたことは,同被告が署名又は押印した伺い書が存在することや,幹部会の議事録(経過を記載した書面)の記載内容からも明らかである。
また,同被告は,理事退任後も平成15年8月27日まで,商工共済の顧問の地位にありながら,その事実を制止・公表することもなく放置した。
イ被告Y2は,平成3年7月26日から平成11年5月25日までの間,同Y3は,同年6月1日から平成15年8月27日までの間,それぞれ,商工共済の専務理事の職にあったものであるが,いずれも,その在職期間中に粉飾経理を行い,その事実を秘匿し,組合員である原告らからの金員の預入れを継続させた。
ウ被告理事らは,A1又はA2と共謀してこのような違法業務を執行したものであるから(他方,これを阻止しようとして何らかの行動を起こした形跡は全くない,被告理。) 事らの行為は,平成15年8月まで継続していた共同不法行為を構成するとともに,中協法38条の2第2項・3項所定の会計帳簿への虚偽記載に該当する。
したがって,被告理事らは,その就任時期や在任期間,原告らの商工共済との取引時期や取引期間,更新の有無といった事情に関わりなく,原告らの預入額全額について,等しく損害賠償責任を負う。
(2) 被告Y1の主張
ア商工共済が債務超過であったことは認めるが,支払不能であったことは否認する。商工共済は,売却価額が6〜10億円と見積もられる商工共済ビルを佐賀市内に所有していたほか,売却価額が1億2000万円と見積もられる土地を佐賀県嬉野町(現・嬉野市)に所有していた。
イ被告Y1が,平成6年12月4日に他の理事から受けた報告としては,A4次長が独断で資金運用をしていたというものであり,粉飾経理があるとの報告ではなく,むしろ,被告Y1がA2副理事長に確認したところ,粉飾経理等はないとの報告を受けていた。
A4次長がした粉飾経理の方法は,決算期ごとに発生した赤字分につき,商工共済及び連合会の有価証券勘定に上乗せ計上するというものであり,被告Y1は認識することができなかった。
被告Y1が粉飾経理を隠蔽するような動機はなく,むしろ,粉飾経理を認識したとすれば,商工共済の理事長を直ちに辞任していたはずである。
被告Y1が粉飾経理を認識していなかったことは,同被告が,含み損が発生している有価証券を売却すれば,損失を計上しなければならなくなるとして有価証券の切替えに反対したことからも明らかである。
ウなお,同被告は,平成15年8月27日まで,商工共済の顧問の地位にあったことを全く知らなかった。
エ本件において,被告Y1が署名又は押印したこととされている伺い書が存在することは事実である。
しかしながら,平成6年12月31日付け伺い書(以下「伺い書1」という。乙ロ4 ,平成6年3) 月31日付け伺い書(以下「伺い書2」という。甲119の5,乙ロ5の1・2)及び平成8年3月31日付け伺い書(以下「伺い書7」という。甲119の1,乙ロ10)の理事長決裁欄の「Y1」を意味するサインは,これは被告Y1がしたものではなく,何者かが偽造したものである。
平成7年3月31日付け伺い書(以下「伺い書3」という。甲119の4,乙ロ6)の理事長決裁欄の「Y1」を意味する印影は,被告Y1所有の印鑑によるものではない。平成7年12月27日付け伺い書(以下「伺い書4」という。乙ロ7)には,理事長決裁欄に「Y1」を意味するサイン又は印影のいずれも存在しない。
平成8年3月5日付け伺い書(以下「伺い書5」という。甲19の3,乙ロ8)及び作成日付不詳の伺い書(甲119の4,乙ロ9,以下「伺い書6」という。)の理事長決裁欄の「Y1」という部分の成立は不知であるが,その内容は,被告Y1の粉飾経理操作についての認識を示すものではない。
また,本件においては,幹部会等の経過を記載した書面(甲118)が存在することは事実であるが,この書面は内容的におかしく,形式からみても,開催日ごとに作成されたものではなく,後日まとめて作成されたいわゆる事後文書と見られるから,信用性を有しない。
オ商工共済内部にあっては,組合内部者が煩瑣な事務手続を簡易に進めるための便法として,理事印の無断使用が常態化していたところ,商工共済は,過去25年分にわたって一定の利益額(14〜78万円)を計上するなど,長年にわたり意図的な経理操作を行い,その結果,商工共済内部においては,粉飾決算に対する違法性の認識が薄く,これをチェックする内部管理体制も確立されていなかったため,組合内部者らが,理事会議事録,伺い書,幹部会議経過書類等の組合関係書類を自らに都合のいいように偽造するに至ったものであり,被告Y1の知らないまま粉飾経理が行われていたものである。
(3) 被告Y2の主張
ア被告Y2は,平成6年9月7日にA4次長からその旨の報告を受けるまで,粉飾経理の事実を知らなかった。
イ同被告は,同日から,辞任した平成11年5月25日まで,被告Y1を含む他の理事からの指示に基づき行動していたのであり,組織人としては,その意向に反する行動は採り得なかった。
すなわち,粉飾経理を公表しないことは,平成7年2月4日以降,理事長であった被告Y1又はA1,副理事長であったA2,他の理事3名から構成される幹部会又は経営推進研究委員会において決定されたことであり,幹部会等に事務局からのオブザーバーとして参加していたにすぎない被告Y2は,その決定に関与できなかった。
ウ被告Y2は,平成11年5月25日,商工共済から退職しており,それ以降の粉飾経理には関与していない。
(4) 被告Y3の主張
被告Y3が商工共済の専務理事に就任したのは平成11年6月1日であり,粉飾経理等の財務状況を認識したのは同年7月以降であるから(就任する際,被告Y2から引継ぎはなかった。),それ以前に原告らが同組合に預け入れた預入金等については,責任も因果関係もない。
同被告自身,商工共済に対し,4口合計600万円を貸し付けていることからも明らかなとおり,平成14年3月まで,商工共済の倒産が避け得ないとは認識していない。
同被告は,粉飾経理を公表すべきとA1理事長に進言しているのであり,組織人としての立場から,できるだけのことはしている。
これに対して,A1理事長から,かつて,松浦信用組合が被告県から無利子融資を受けて救済されたことがあるが,商工共済のアルゼンチン債問題についてもC1知事に相談しているなどと言われ(甲96),商工共済を再生させようと努力したのである。そのため,自己名義で預入れをしているのである。
同被告に責任があるのは,アルゼンチン共和国がモラトリアム宣言を発し,そのため,商工共済が購入していたシーバス・インターナショナル・リミテッド社(以下「シーバス社」という。)が発行する社債である「シーバス・インターナショナル・リミテッド(シリーズ34)」(以下「シーバス34」という。)が破綻した後の平成14年4月1日以降の預入れである。
その後も,被告県からの救済策があることなどを信じて行動していたA1理事長に従い,商工共済が危機的な状況から脱することに協力していたのであるから,この事実は,いわば緊急避難に類するものとして,賠償額の算定に当たって考慮されるべきである。

2 被告県の責任

(1) 原告らの主張
ア中協法106条は中小企業等協同組合に対する業務改善命令権限を規定しているが,この権限は,当然に監督義務を前提としており,監督庁には,中小企業等協同組合の業務・会計が明らかに法令・定款に違反する場合,監督権限を発動してその是正措置を採らなければならない義務がある。
イ商工共済は,組合員に対する貸付業務によって資金運用を行っていたが,貸付けだけでは全資金の運用ができないので,余裕資金を国債等の有価証券を購入して運用していたところ,運用担当者であるA4次長は,平成2〜3年にかけて,有価証券,とりわけワラントの運用の失敗により多額の損失を出し,これを隠蔽するため,平成3年ころ以降,上記損失額を保有有価証券の価格に上乗せする粉飾経理操作を行うようになった。
当時の専務理事であった被告Y2は,遅くとも平成6年9月までに,商工共済には約5億円の損失が発生していること,A4次長がこれを粉飾処理していたことを知り,同年12月初めころには,理事長であった被告Y1においてもその事実を知るところとなったが,その後も商工共済は,上記の粉飾処理を継続しただけでなく,新たに平成6年度に発生した約2億円の赤字についても粉飾決算した。
被告県商工労働部のC3次長やC5課長は,平成7年12月ころ,商工共済が粉飾経理を行っているとの報告をA2副理事長から受けたため,それに基づいて商工共済を調査した上(以下「本件調査」という。),平成8年7月31日までに商工共済の累積欠損・粉飾経理の状況を把握し,その結果をC1知事にまで報告した。このような調査が内々のものにすぎないはずがなく,それによって,被告県は,商工共済が破綻する蓋然性を認識した。
ウ平成8年7月当時において,商工共済の再建の可能性は皆無であった。
すなわち,平成7年度末の商工共済の資産状況は,粉飾を修正し,有価証券含み損を考慮すると,商工共済単独で,負債53億8900万円,資産43億6100万円,累積欠損10億2800万円,債務超過率23.6%,連合会との合算後で,負債66億4000万円,資産50億4900万円,累積欠損15億9100万円,債務超過率31.5%であり,明らかに支払不能,破産状態にあった。
そもそも,商工共済は,相互扶助の精神により,市中金融機関から借り入れることのできない組合員を対象に貸付けすることを事業としていたが,昭和50年代後半から市中金融機関が個人に対する融資を始めたことなどにより,商工共済の貸付事業は減少の一途をたどっていた。
他方,組合員から共済掛金を受け入れる共済事業は,共済掛金以上の共済金を返戻していたことなどから,いわゆる「逆ざや」の状態となっていた。
こうした中,商工共済は,これらの共済金等の原資を有価証券の投資に求め,有価証券勘定が突出するようになっていたものであるが,バブル経済崩壊後,この有価証券の価額が下落し,その含み損を多く抱えることとなったため,破綻状態に陥るに至った。商工共済が破綻状態であったことは,理事ら,被告県の担当者,商工共済の取引先であった金融機関の担当者らが捜査機関に供述したとおりである。
特に,金融機関の担当者らは,このような財務状況の下では,商工共済に融資することはあり得ないとも供述している。
また,被告県の調査後においても,商工共済と連合会を合算した純資産比率は,平成10年度の−35.02%を皮切りに,平成13年度には−40.99%にまで悪化しているのであるから,単年度黒字すら達成していないことが明らかである。
仮に,単年度黒字を達成していたとしても,経理を粉飾している状態にあっては,再建に向けての環境が整ったともいい難い。
エこのような中,商工共済の当時の代表者であった被告Y1及びA1理事長は,累積欠損等を粉飾する経理を継続するとともに,組合員に対し,総代会において虚偽の報告をする一方,集金人に対しては,そのような粉飾経理等を隠したまま,ノルマを設定するなどして組合員からの集金を促進し,これを継続させていた。
オ商工共済は,平成9年4月11日,シーバス34を15億円分購入しているが,シーバス34は,アルゼンチン共和国国債を唯一の担保とする,元本保証のない債券であった。このような内容の債券を購入すること自体,無計画ないわば「ばくち」と評価せざるを得ないが,仮に,利息支払(毎年6480万円)が履行され続けていたとしても,平成8年当時の実質的債務超過額(18億円)に照らせば,焼け石に水というほかない。
商工共済は,帳簿上,平成10年度から単年度黒字を達成しているが,わずか1000万円前後であって,しかも,有価証券の入替えによる一時的な収益増加にすぎないのであるから(人件費等の削減もあるが,これによって収益性が増加したわけではない。),これをもって,自主再建の環境が整ったということはできない。
カ被告県に対する責任原因
(ア) 以上のとおり,商工共済は,被告県が調査の結果,商工共済の累積欠損・粉飾経理を知った平成8年7月の時点において,既に破綻しており,再建の見込みなど皆無であった上,大規模累積損失の粉飾経理自体,極めて重大な法令違反行為であるから,再建の可能性があろうがなかろうが,監督官庁としては,その是正を命令ないし指導する法律上の義務が存するのであり,被告県としては,遅くとも平成8年7月の時点において,商工共済に対し,中協法106条1項に基づき,必要な是正措置(粉飾経理の是正,組合員に対する真実の財務実態の開示等又は組合員からの金員の預入れの中止を命じること)を採るべき義務があるのに,何らの措置を採ることなく,むしろ,粉飾経理の状況を公にしないで黙認・放置する方針を決定し,商工共済の総代会にも出席して経営状態を褒め称えるあいさつをするなどして,平成15年8月に商工共済が破産申立てにより業務を停止するまで,理事である他の被告らの違法行為を放任し,その行為を助長し,その結果,原告らに対し,共済掛金及び貸付金を預け入れさせ(更新も含む。),また原告らが本来ならば行えた組合員による返還請求権の行使の機会を平成15年8月まで奪い続けてきたのであるから,被告県の対応は,裁量権の範囲を大きく逸脱しており,著しく合理性を欠いたものである。
したがって,被告県は,原告らに対し,国家賠償法1条1項に基づく責任を負う。
(イ) 被告県は,本件においては,商工共済の会計実態や業務実態について認識した上で,その後も商工共済に対し,従前と変わらない業務の続行と粉飾経理の続行(真実の財務状況の隠蔽)を明確に指示しているのであるから,単なる不作為ではなく,詐欺行為への加担であって,作為と評価されるべき違法行為がある。
(ウ) 本件においては,被告県の上記不作為ないし作為がなければ被告理事らの違法行為が継続することはなかったのであるから,被告県の上記不法行為と被告理事らの行為は,商工共済の組合員である原告らに対する共同不法行為を構成する。
(2) 被告県の主張
ア被告県は,商工共済から自主再建に向けた経営改善に取り組んでいるとの報告を受けたために,その動向を見守ることにしたのであり,商工共済の行為が詐欺的であるとか,違法であるとの認識を持っていたものではなく,故意に商工共済の違法行為・詐欺行為を助長・容認したものではないし,この点について,被告理事らとの間に共謀は存在しない。
したがって,被告県について,作為の不法行為が成立する余地はない。
イ被告県の不作為が違法となるのは,当該公務員が当該具体的事情の下において当該規制権限を行使しなかったことが当該規制権限の根拠法規の趣旨・目的のみならず,慣習・条理等に照らして著しく不合理と認められる場合に限られる。
そして,その判断に当たっては,
(ア) 当該個別の国民の生命・身体に匹敵するほど重要な財産に対する具体的危険が切迫していたといえるか(危険の切迫)。
(イ) 当該公務員が上記危険を知り又は容易に知りうる状態にあったといえるか(予見可能性),
(ウ) 当該公務員が当該規制権限の行使により容易に結果を回避しえたといえるか(結果回避可能性),
(エ) 当該公務員が当該規制権限を行使しなければ結果発生を防止しえなかったといえるか(補充性),
(オ) 国民が当該公務員による当該規制権限の行使を要請ないし期待している状況にあったといえるか(国民の期待)等の諸点を総合考慮し,いずれの観点から見ても規制権限の不行使が著しく不合理であるかを検討して決すべきである。
ウ中協法の規制権限は,個別の国民の権利利益を保護することを目的とするものではなく,その根拠法規において規制権限を行使すべきことが一義的に規定されているものではない。
また,中協法は,そもそも組合の設立,活動につき可能な限り行政の関与を排除する趣旨で制定され,協同組合の自主性を確立するため,協同組合の設立に準則主義(法律の定める一定の組織を備えることによって法人の成立を認める主義)を採用していたが,その後休眠組合や著しく不当な活動を行う組合が現れてきたことから,昭和26年から昭和30年までの改正において,設立時における認可主義(一定の組織を備え,かつ,所轄行政庁などの認可によって法人の成立を認める主義)を採用するとともに,報告の徴求などの規定が新設されたものの,その改正の趣旨は,専ら休眠協同組合・違法目的協同組合の整理にあり,その他の協同組合の自主性を尊重するとの目的に変わりはなく,規制権限についても,105条の4で限定的に可能であるとされているにとどまる。
したがって,中協法において,所管行政庁に与えられている監督権限は,組合の自主性を重んじ,行政の関与を極力控えるという考え方が基本であり,いわば「後見的指導監督」とも言うべきものであるといえる。
これは,銀行法において,金融庁に対し,監督官庁として銀行に対する強大な監督権限が規定されていることとは,その内容や強制力において全く異なる。
エ以下のとおり,被告県の中協法上の規制権限の不行使は,裁量を逸脱した違法なものではない。
(ア) 被告県は,C3次長にA2副理事長が相談を持ち掛けたことを契機に,平成8年1月ころから商工共済に対する調査(本件調査)を行ったことは事実である。
しかし,これは内々の調査であり,正式なルートの調査ではなかった。
本件調査の結果をまとめた「佐賀県商工共済協同組合関係資料」(以下「本件資料」という。)には,商工共済の財務状況については非常に厳しいなどと記述され,C5課長らが,商工共済の累積欠損や粉飾経理状況を認識したことは事実である(ただし,本件資料の31頁目の「問題点」は同課長目に触れたことがない。)。
しかしながら,商工共済は,債務超過の状態にすぎず,支払不能の状態ではなかった。
その後も何度か聴取り調査をする中,被告Y2から10か年計画などの再建計画を示されるとともに,シーバス34を購入するなどという具体的な報告を受け,平成9年6月30日,被告県は,商工共済の自主再建は可能と判断した。
なお,C5課長は,中小企業診断士の資格を有し,経営状況についての判断能力はある。
専門家に相談していないことは事実であるが,そのことだけから,C5課長の判断が不合理であるということはできない。
加えて,この問題の影響が大きいことを考慮すると,守秘義務との関係で,外部に相談することは容易にできるものではない。
ちなみに,C5課長の刑事事件における検察官調書(甲29)には,これに反する記載があるが,検察官による取調べは丸二日間にわたり長時間行われ,特に2日目は台風が通過する中で行われたものである上,検察官は頭ごなしにC5の反論を否定し,調書作成の方式もC5の面前で口授するものではなく,予め検察官が別室にて作成した調書をC5に示すという方法により行われたものであるから,その内容は信用性に乏しいものである。
また,被告Y2は,シーバス34がハイリスクな有価証券であるという認識は有したことはなく,C5課長も,同被告からシーバス34についてサムライ債(円建て外債。具体的には,アルゼンチン共和国国債)としか報告を受けていなかったのであるから,ハイリスクであるとの認識を持てなかった。そもそも,我が国の国債も年利5%を超えている時期があったのであるから,シーバス34が殊更に危険であるということはできない。
したがって,その当時において,中協法上の規制権限を行使するまでの事実はなく,むしろ,被告県が商工共済の粉飾経理を是正するために規制権限を行使すると,取付け騒ぎが生じる結果,組合が破綻する可能性が極めて高かったのであるから(民事再生法(平成11年法律第225号)附則2条による廃止前の和議法によれば,大口債権者に乏しい商工共済にあっては,和議が成立する見込みに乏しかった。),破綻によって損なわれる既存組合員の利益を考慮すると,規制権限を行使しなかったことは,裁量の範囲内である。
C5課長は,このような二律背反の状況等を踏まえ,平成8年7月から1年間ほど財務状況をフォローしたのであって,少なくとも,この程度の期間,経過を見守ることも当然許容されるべきである。
(イ) C5課長は,平成10年3月31日付けで,被告県の商工企画課課長の職を解かれたが,後任のC6課長に対し,一般的な方法での引継ぎ自体はしていた。
確かに,本件調査が正式のものではなかったことから,同年4月以降,C6課長において,商工共済に対する特段の指導監督をすることはせず,翌平成11年4月1日以降は商工共済に関する引継ぎも途絶え,指導監督されることがなかったことは事実である。
しかしながら,商工共済は,平成9年には,高利の外債であるシーバス34を購入した結果(なお,日興証券の担当者も,その格付けはBB+であると説明しており,シーバス34が破綻するという認識は持っていなかった,平成10〜。) 12年度の3期連続で実質黒字決算となっており,被告県のC5課長は,被告Y2から,商工共済は,今般アルゼンチン共和国国債を購入すると聞くにとどまり,シーバス34の内容の詳細な説明を受けていないのであるから,被告県において,商工共済が無計画な「ばくち」をしているなどという認識は抱いていなかった。
加えて,被告Y2の後任であった被告Y3からは,被告県に対する何らの報告もなく,現実にも,平成13年末に,アルゼンチン共和国国債が支払停止をするとのモラトリアム宣言をするまで,商工共済は,シーバス34からの利息収入を受けていたのである。
また,人件費支出も減少していた。
したがって,平成8年7月当時に比較すれば,被告県の監督の必要性は低減していたとも考えられ,他方,被告県の課長職ともなれば,懸案事項として引継ぎを受けた事項も多岐にわたっているのであるから,商工共済だけに積極的に関与することまでは無理なところもある。
(ウ) 平成13年12月24日,アルゼンチン共和国によるモラトリアム宣言を受けてシーバス34の利息支払も停止したが,商工共済の先行きはなお不透明であり,直ちに規制権限を行使すべき事態とはいえなかった。
確かに,被告県内部の引継ぎがされていたとすれば,この支払停止宣言から間をおかず,商工共済のシーバス34保有に気付き,報告を徴求したであろうとは考えられる。
しかしながら,被告県への報告に当たっては,シーバス34の元本返済の見込みなど,商工共済内部の検討に相当の期間を要したものと考えられ,それを待たず,直ちに規制権限を行使することが要請されたわけではない。
被告県において規制権限を行使して,商工共済に粉飾経理を公表するよう命ずべき事態となったのは,その検討のために必要な期間を考慮すると,シーバス34の破綻から2度目の決算を経た,本件破産宣告(平成15年8月27日)と同時期ころであったと考えられる。
オ被告県が被告理事らあるいは商工共済とともに原告らに対し,共同不法行為責任を負うことはない。
(ア) 規制権限不行使が違法となる以前の貸付けについて
原告ら主張の平成8年7月以前に貸付けがされたものについては,被告県に何ら規制権限不行使となるような事実は存在せず,責任主義の原則や従前の共同不法行為に関する判例理論に照らし,被告県が責任を負うものではない。
(イ) 規制権限不行使が違法となって以後の貸付けについて
本件において,商工共済ないし被告理事らが負うべき注意義務は,原告らが貸付けを行うことにより損害を被ることを回避すべき義務であるが,これに対し,被告県が負っていた注意義務は,監督官庁として商工共済の粉飾の内容を公表するか,その他適切な措置を講じる義務にすぎず,これは商工共済ないし被告理事らが注意義務を履行していれば,被告県が規制権限を行使しなかったとしても,原告らの損害は回避できたという二次的なものであり,両者の注意義務の内容は異なり,共同不法行為を構成する前提を欠く。
加えて,本件で商工共済が責任追及を受けることとなる事実は,原告らからの金銭の受領そのものであるのに対し,被告県のそれは規制権限の不行使という不作為であり,それらは社会通念上一個の行為であるとはいえない。
カ仮に,被告県が被告理事らないし商工共済と共同不法行為責任を負うとしても,前記のとおり,被告県には原告らに対する積極的な加害意思が存在せず,被告理事らとの間に共謀が存在しない以上,強い関連共同性(主観的関連共同性)は存せず,原告らに生じた損害が可分である以上,被告県が責任を負う範囲は,被告県の権限不行使と相当因果関係を有する損害にとどまる(最高裁判所昭和43年4月23日判決・民集22巻4号964頁参照)。

3 原告らの損害額(因果関係を含む。)

(1) 原告らの主張
ア原告らは,商工共済による粉飾経理による欠損−債務超過の隠蔽という欺罔行為により,別紙請求金額表記載のとおり,@各共済掛金については,初回預入日欄記載の日から最終預入日欄記載の日までに,A各貸付金については,最終預入日欄記載の日において,各預入額欄記載の各金員を商工共済に預け入れて,各預入額の損害を被ったのであり,預入れによりその全額が直ちに損害となる。
なお,本訴は,個々の被害組合員が個々に原告となって,共同訴訟として損害賠償訴訟を提起しているにすぎず,被害組合員が総体となって損害賠償を請求しているのではないから,不法行為の成否,損害賠償の範囲については,個々の原告らの金員預入について,個々にその要件を吟味すればよいのであって,倒産処理手続における債権者平等の要請などを観念すべき余地はなく,破産配当可能額をベースに損害賠償額を減額するという立論も成り立ち得ない。
イ仮に,原告らの預入れの一部につき,更新がされたものがあったとしても,それは,満期金等の現実の返還を受けて預け入れ直すという迂遠な手続を省略したものにすぎず,新たな現金の預入行為と等価である。
なお,A1,A2,被告Y3及びA5に対する詐欺被告事件は,更新された貸付金等について起訴されていないが,これは,財物の交付を構成要件とする刑法246条1項の解釈から当然のことである。
ウ前記のとおり,被告ら及び商工共済には共同不法行為が成立するのであるから,商工共済の行為と原告らの損害との間に因果関係が認められる以上,被告県を含む被告らは,この全額について,連帯して責任を負うべきである。
被告Y1及び同Y2は,それぞれ平成8年7月14日及び平成11年5月25日に商工共済の理事長又は専務理事を退任しているが,同被告らが関与した方針に基づき,商工共済は粉飾経理や預入業務を継続し,他方,退任後にこれを制止しようとしていないのであるから,後任の理事らの不法行為とは相互に補完し合うものとして,それぞれ退任した以降も責任を負うことは明らかである。
被告Y3については,平成11年6月1日の就任後,商工共済が粉飾経理を前提とする預入れ業務を行っていることを認識しながら,公表・告発するなどしてこれを制止せず,むしろ,継続させているのであるから,先行行為を引き継ぐものとして,就任前の不法行為についても責任を負う。
エそもそも更新を含めると,原告らの金員の預入れは,ほとんど全てが被告県が遅くとも責任を負う平成8年7月以降のものであるが,年金共済については,極く一部ではあるものの,平成8年7月以前の掛金預入れが存在する。
しかしながら,商工共済に金員を預け入れている原告ら組合員は,商工共済が莫大な累積欠損を抱えて破綻状態にあることを知ったならば,預入金銭の返還請求を行うことが確実であるところ,被告県は,商工共済の詐欺行為を認識し,その継続を指示したものであるから,これにより,原告らを錯誤に陥れたまま,預入金銭の返還請求をさせなかったのであって,その行為自体不法行為を構成する。
したがって,被告県の不法行為責任は,被告県が商工共済の詐欺行為を認識しその継続を指示する以前に金銭を騙取された原告らとの関係でも,同様に成立し,賠償責任を免れない。
オ被告らは,原告らの損害賠償請求に応じなかったことから,原告らは,原告ら訴訟代理人弁護士に委任して本訴を提起せざるを得なかった。
原告らは,各損害額の10%相当額を弁護士費用として請求する。
(2) 被告県の主張
ア前記のとおり,被告県の規制権限不行使は,商工共済ないし被告理事らの行為と共同不法行為になるものではなく,仮に共同不法行為になるとしても,被告県が損害賠償責任を負担するのは,被告県の行為(不作為)との間に相当因果関係のある損害に限られる。
したがって,被告県は,その規制権限不行使が違法となる以前の貸付けについては,相当因果関係を欠くことから,損害賠償義務を負わない。
イ更新は,あくまでも法律的には準消費貸借契約の成立にすぎず,これを現金の現実の貸付けと同視することは不可能であり,原告らの損害発生時期は,現実に原告らが商工共済に対し,現金を貸し付けた時期であるから,これが被告県の規制権限不行使が違法となる前の段階であれば,被告県はかかる貸付けに対し責任を負うことはない。
なお,被告県が商工共済の粉飾経理等を公表したとすれば,その時点で商工共済は破綻し,したがって,その後に業務を継続することはなく,本件更新ということもあり得ないはずであり,その意味においても,本件更新だけを殊更に損害視することは
相当でない。
そして,原告らは,本件において,個別の金銭の現実の貸付時期を具体的に主張立証していない。
ウ仮に,原告ら主張のように,最終貸付更新日を損害発生時期ととらえたとしても,被告県が規制権限を行使すべきであったとされる時点で,既に商工共済が一定程度の債務超過に陥っている以上,被告県の規制権限の行使が適正にされていても,それまでに金銭を貸し付けていた原告らが一定程度の損害を被ることは避け得なかったのであるから,更新額の全額が被告県の規制権限の不行使により発生したものとはいえない。
エなお,別紙請求金額表中,原告番号46の佐賀県借入額は39万円(同表には37万円と記載されている。),同番号58の同額は5万円(同表では零とされている。)が正確である。
(3) 被告Y1の主張
ア仮に,被告Y1に不法行為責任があるとしても,被告Y1は,後任の理事らに対して,将来も粉飾経理を継続するように指示したことはなく,その後の粉飾経理操作にも関与していないのであるから,被告Y1が商工共済の理事長を辞任した平成8年7月14日以降において,原告らが商工共済と締結した本件共済・本件金銭消費貸借契約に基づく共済掛金・貸付金について,相当因果関係が認められないことは明らかであるし,被告Y1の不法行為と相当因果関係のある損害は,平成8年3月期決算における商工共済の財産状況に基づく損害,すなわち,仮にその時点で商工共済が破産手続を行った場合に生じる損害にとどまる。しかも,このような損害を観念すること自体,極めて仮定的であり,仮定的な損害に対する不法行為責任を負うことはない。
イ原告らに具体的損害を惹起せしめたのは本件破産であるが,その最大の原因がアルゼンチン共和国のデフォルトの結果,被告Y1が退任後に購入されたシーバス34が実質的無価値になったという点にあるのであるから,仮に,原告ら主張のように,被告Y1が平成7年3月期決算及び平成8年3月期決算において,粉飾経理操作を行うことを認識,認容したとしても,被告Y1の行為と原告らの損害との間には相当因果関係はない。
ウ原告らの主張によれば,本件更新(特に,最終の更新)が不法行為を構成するということになるが,そうだとすれば,その時点において,当初の預入れ又はそれ以前の更新の違法性は消滅するはずである。
したがって,被告Y1が在任中に締結された本件金銭消費貸借契約については,本件破産宣告までに1〜3年の満期が既に到来し,本件更新を経ているのであるから,これによる損害と被告Y1の不法行為との間には相当因果関係はない。
(4) 被告Y2の主張
被告Y2が,幹部会等の決定に従って稟議書等を作成したことが不法行為に当たるとしても,幹部会で平成6年度の粉飾決算の決定がされた平成7年2月4日から同被告退職の日の平成11年5月25日までに商工共済に預け入れられた共済掛金のうち,商工共済の破産までに満期を迎えていない10年満期のものに限り,上記不法行為との相当因果関係ある損害に当たるから,その損害額は,497万7400円(ただし,後に本件配当により,330万5300円に縮減した。乙ヘ2)にとどまる。
同被告がA4の粉飾経理を知る前や同被告が退職した以降に発生した損害とは,相当因果関係がない。
(5) 被告Y3の主張
ア同被告が商工共済の専務理事に就任したのは平成11年6月1日であり,粉飾経理等の財務状況を認識したのは同年7月以降であるから,それ以前に原告らが同組合に預け入れた預入金等については,責任も因果関係もない。同月以前に預け入れられた預入金等については,仮に,被告Y3が関与した以降に本件更新を経たとしても,その際,同被告が組合員に商工共済の財務状況を告知したとすれば,その時点において商工共済が倒産したはずであり,預入金等の返済・更新が不能であることに変わりはなく,したがって,これによる損害と被告Y3の不法行為との間に相当因果関係はない。
イ商工共済が支払不能の状態となった後に,原告らから現実の預入れを受け入れた現金分については,因果関係があることを認めるが,その時期は,刑事事件において,有罪判決を受けた平成14年4月1日以降のものに限られる。
ウなお,同被告は,商工共済に対する上記の貸付金債権(651万円)及び退職金債権(176万円)を放棄したほか,商工共済の破産管財人に対して自らの保釈保証金500万円に200万円を加えた合計700万円を支払い,配当原資の増殖に寄与している。

4 本件配当金の充当

(1) 原告らの主張
仮に,被告らの中で損害賠償債務の範囲がその一部に限定される者がいる場合には,その余の共同不法行為者である被告らの損害賠償債務額から充当されるべきである。
また,原告らには,各預入れの時期から本件配当を受けるまでの間の遅延損害金債権が発生しているから,本件配当金は,債務の全部を消滅させるに足りない給付であるから,特約がない限り,民法491条1項に従い,遅延損害金にまず充当されるべきである。
(2) 被告県及び同Y3の主張
本件配当金は,その性質・算出根拠に照らして,遅延損害金からではなく,元本から充当すべきである。

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